W2×1　【MiyabihimeA】

　先ほどから尾行てくる気配を感じていたが、心当たり満載過ぎて敵が特定できない。そこで顔を確認してみればと考えたのだが、残念ながらデュオの記憶力を持ってしても思い出せなかった。つまり、どこかの組織の構成員ではない。それだけわかってもしょうがないが・・・・少しでも、情報がないよりマシだ。
　よりによって、このオレにケンカ売るなんて・・・・運の悪いヤツ。
　プリベンターの玄関を出てから付いてきた気配なので、誰がターゲットか分からない。もしプリベンター職員なら誰でもＯＫだったなら、最悪の選択としか言い様がなかった。
　ヒイロやトロワなら撒かれて終わり、五飛なら食って掛かってもケガをさせられる心配はない。他の職員やエージェントだと、殴り合いになる可能性があった。大きな実力差があるという意味では、ガンダム・パイロットに当たるのは運がいい。軽くあしらわれて、大ケガの心配が減るからだ。
　ただ、デュオでさえなければ・・・・。
「まぁ、オレが心配することじゃないか」
　相手の命の使い方を、デュオが考えてやる必要はない。
　くすくす偲び笑うと、ビルの裏へ足を向けた。もちろん尾行の主を誘い出すのが目的だ。予想通りついてきた足音に、ほくそ笑む。路地を２つ曲がり、振り返って待った。
「オレに用？」
　立ち止まった男が慌てて引き抜いた銃を、がっちりと掴んだ。リボルバーは、シリンダーを掴まれれば引き金が引けない。構造上の特性を生かした防御に、男はパニックに陥っているようだった。
　ぐいっと捻れば、悲鳴を上げた男の指が折れる音が響く。聞き慣れた骨折の音に、気分が高揚した。ぞくりと背筋を走る感覚は、戦場で感じるものに似ている。
　知らず知らず、口元が歪んだ。
「誰を狙った？」
「・・・・・殺人者の、くせ・・にッ！」
　吐き捨てるように告げられた言葉に、彼のターゲットは自分で間違いないと判断する。
「だから？　おまえもオレを殺して、殺人者になるのか？」
　ぎりっと男の歯が泣いた。噛み締めた唇から零れた赤い血は、男の怒りを表しているのかも知れない。強く噛み締めた奥歯が、再びぎりりと音を立てた。
「返り討ちの可能性を考えなかったのか。オレを殺すなんて無理だぜ？」
　くつりと喉を震わせて嘲る。小首を傾げた所為で滑り落ちた三つ編みを、指先で背へ弾いた。
「・・・白い、ガ・・ダムの奴・・・・・・っ！」
　白いガンダム―――心当たりはヒイロ。最愛の相手を狙ったのだと知り、そのまま逃がしてやる気は完全に失せた。たいした相手じゃなくても、見逃せば再び牙を剥く。些細な可能性であれ、ヒイロに危害が及ぶ可能性がある人間を、デュオが許す筈もなかった。
「ふ～ん、アイツを狙ったのか・・・・じゃ、死ぬしかないだろ」
　わざとヒイロの名を伏せて呟く。後半は男に言い聞かせる響きを持っていた。銃を持っていた右手の指を骨折し、すでに男の気力は尽きている。
　だが、手加減してやる気はなかった。
　獅子は兎を屠るにも全力を以てす―――男から奪った銃を向けると、無造作に一発放った。案の定、サイレンサー装備もない銃は吠える。だが、男の悲鳴より小さな音だった。
　パンと軽い音が響いて、僅かの衝撃が手に返る。それを手首で吸収し、また照準を男に向けた。一度で命を奪わなかったのは、デュオの中に生まれた感情故だ。
　ヒイロを奪われること。
　それはデュオが一番怖れる事態だった。自分を殺されるならいい、他の何を奪われても鼻で笑うだろう。しかし、ヒイロだけはダメだ。離れていくのも、奪われるのも、絶対に許せなかった。
　右手、右足、左手、左足・・・腹部。徐々に相手の力を奪っていくデュオは、致命傷となる部分を避けて撃ち抜く。その残酷な行為に、彼は表情さえ変えなかった。普段とあまりに違う、完全な無表情で淡々と仕事をこなす。その雰囲気は、人間離れしていた。
　悲鳴が、苦痛の呻きになる。だんだんと弱くなる男の命を、最後の銃弾が奪った。
「さよなら・・・だ」
　握っていた銃を死体の上に放り出す。どうせ指紋や掌紋は出ないのだ。特殊な加工をした肌は、滑らかな金属やガラスの表面であっても指紋を残さなかった。無造作に放った銃が、からんと乾いた音を立てる。
　硬い表情のまま踵を返し、デュオはドキリとして目を見開いた。
　逆光になる路地の入り口に、見間違えようのない人物が立っている。誰より潔くて、透明で純粋な―――英雄の名を受け継ぐエージェント。
「ヒイ・・・ロ・・」
　歩み寄るデュオを待つヒイロの視線が、銃と男へ移った。
「あれは？」
「ヒイロを狙ってたから、殺した」
「その必要性が？」
　俺が梃子摺る、それほどの相手か？
　そんなことある筈ないのに、否定の言葉を求めて問いかける。残酷な恋人に、デュオは眉を顰めて首を横に振った。
「いや・・・・」
「ならば・・」
　余計なことをするな。以前にも言われた冷たい刃を向けられる前に、デュオはヒイロの声を遮った。
「オレはヒイロを愛してる。だから殺す必要があったんだ」
　おまえを愛していく為に、この殺人は必要だった。これからも同じような場面があれば、いや・・ヒイロに危険が及ぶと思えば殺すだろう。
　真っ直ぐな蒼い瞳に、微笑む自分の姿が反射しているのを、デュオは愛しさを滲ませながら見つめる。くすっと笑ったヒイロが、踵を返した。
「いくぞ、デュオ」
　ちらりと視線を向けられ、デュオは双頬を綻ばせた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　すみません。力量不足です。”愛し合うために殺す”んじゃなくて、”愛してるから殺した（しかも過去形）”になってしまいました・・・・汗；
　頑張りましょうのスタンプを押してしまいたい（笑