W2×1　【MiyabihimeA】

　ピンポーン。
　チャイムの音に、デュオが顔を上げる。明るい窓へ向かって座り、小説の続きを読んでいたデュオは、珍しく髪を編んでいなかった。その為に落ちてくる髪を、軽く後ろで結んだだけの状態だ。ブラウンの軽いウェーブがついた髪を揺らし、軽く首を傾げた。
　この家に来て数日、それより前を思い出しても、ここを訪問する人間を知らない。もちろん昔から監視していた訳ではないので、自分が気づかなかっただけかも知れないが・・・・。
「そこのソファで待っていろ」
　隣室から出たヒイロの言葉に、素直に頷いて本を畳んだ。
　ここで待っていていいのだろうか。ヒイロの知り合いなら、自分は顔を見せない方がいいのでは？　普段から母親に「みっともないから顔を出すな」と叱られることが多かったデュオは、客が来るという状況に慣れていなかった。それ故に、興味と恐怖がない交ぜになって広がる。
「こちらです」
　ヒイロが案内してきた人物に、デュオは愕然とした。
　見たことのある制服―――警察官だ。優しそうな青年が何か話しかけてきたが、デュオには聞こえていなかった。脳裏に浮かんでいたのは”裏切られた”の一言だけ。
「デュオ・・・」
　軽く肩を揺すられ、隣にヒイロが腰掛けている事実に気づく。見開いたままの瞳で見上げれば、苦笑したヒイロが小さく首を横に振った。
「大丈夫だ。心配要らない」
　そう告げると、デュオの肩を抱き寄せたまま、警察官に相対した。
「申し訳ありませんが、捜索願だけお願いします。あと、この子の傷・・・虐待の可能性があります。そちらの調書は後日・・・・・ええ、それまで彼は責任を持ってお預かりしますので・・・・・」
　途切れ途切れの会話をぼんやりと聞き取りながら、デュオはだんだんと俯いていく。その姿に哀れを感じたのか、警官は屈み込んで目線を合わせて口を開いた。
「何も心配しなくていいからね」
　無言で俯くデュオの頭をくしゃっと撫でると、警察官は立ち上がって出て行った。見送ったヒイロが戻ったリビングで、デュオは手近にあったクッションを投げつける。飛んできたクッションを事も無げに受け止めたヒイロへ、呻くような声で抗議した。
「何で警察なんて呼んだんだ！」
「必要だ」
「契約したの、忘れたのかよッ！！」
　再び拾い上げた別のクッションを投げる。他に投げる物がないか探すデュオの手首を取り、ヒイロはデュオの頬を張った。ぱちんと音がする程度の、軽い平手に目を瞬かせる。
　半分パニック状態だったデュオが我に返ったのを確認し、ヒイロは引き摺るようにして少年をソファに座らせた。
「いいか。母親の失踪届けが必要になる。届け出ないことで、逆にお前が疑われるんだ」
　ちらりとヒイロが視線を向けた先は、隣家・・・すなわちデュオの家の庭だった。すでに薔薇が蕾を付け始めている。もう数日で、赤い薔薇が見事に咲き誇るだろう。
　つられるように庭へ視線をやれば、言い聞かせるように続けられた。
「契約は有効だ。お前が俺の物でいる限り、完全に隠してやる」
「・・・・・わかった。ごめん・・・」
　疑ったことを謝るデュオの頭を抱き抱え、庭を見ないように引き寄せた。ヒイロの腕の中で、デュオはそっと背に腕を回す。優しく抱き締められたことも初めてなら、自ら抱き締め返したのも初の経験だった。
「何も心配するな」
　普段より饒舌なヒイロに頷き、デュオは青紫の瞳を閉じた。
　だからデュオは知らない。頷いた際にヒイロが見せた、残酷に歪んだ口元を―――悪魔のような笑みの意味さえ・・・・・知らずにいた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　なにやら、ヒイロが影で画策していますね。ま、楽しそうなのでよし！　←え？
　デュオは罠に掛かった子羊・・・っぽいんですが、実は・・・・・って感じにしたい！！　まだ希望だけどね（苦笑