W2×1　【MiyabihimeA】

　分からないことがあれば聞け。優しいのか、厳しいのか・・・よく分からない口調で告げると、ヒイロはリビングから繋がる隣室でパソコンを弄り始めた。どうやら仕事は在宅で出来るものらしい。
　邪魔にならないよう、リビングのソファの足元に座り込む。ソファ自体を背凭れにしながら、明るい窓際で本を開いた。難しかったらどうしようと懸念していたデュオの予想を覆し、内容は意外に簡単な単語の並ぶ小説のような物だ。どうやらヒイロの気遣いらしい。
　素直に読み始めれば、思ったより夢中になっていたようで。手元の薄暗さに顔を上げれば、すでに外は夕暮れ時だった。
　いつの間に・・・・思って手元に目を落とせば、本の上に人影がかかる。
　びくりとして身を竦め、反射的に蹲った。
「デュオ・・？」
　母親の甲高い怒鳴り声と違い、怪訝そうに掛けられた低めの柔らかな声に、全身から力が抜ける。その様子から事情を察し、ヒイロは眉を顰めた。普段から母親に暴行を受けていた影響だろう。
「あの、食事の支度とかするな」
　どう対応していいのか困るヒイロに、慌てたデュオが立ち上がる。キッチンへ駆け込む姿を見送り、ヒイロは昨夜を思い出していた。

　客間だった部屋を宛がったのに、彼はリビングで眠っていた。それも床の上で・・・・。簡単な仕事を片付けて、飲み物でもとリビングを通らなければ、朝までデュオは床で寝ていたのだろう。驚いて声を掛ければ、平然と彼は答えた。
「何もいらないから」
　暖かい部屋も、心地よいベッドも、優しい人の手も―――求めなければ、失わない。彼はそうやって求めずに生きてきたのだと、笑顔で突きつけられた。
　少年のように幼く感じられる精神は、親が育児を放棄した結果だろう。本来はもっと賢く、そして体も成長している筈だ。デュオの年齢は、ヒイロと２歳しか違わなかった。もっと離れていると思っていたヒイロが動揺するのを、違う意味で受け止めたらしい。
「あの、気にしないで・・」
　殺されそうになった正当防衛で親を殺し、それをネタに無茶苦茶な契約を負わされている立場だというのに・・・・どうして脅迫者であるヒイロを気遣えるのか。

「ヒイロ、簡単だけど用意出来たよ」
　すでに環境に順応しつつあるらしく、デュオは気負うことなくヒイロの名を呼んで手招く。さきほどの人影に脅える姿が想像も出来ないほど、彼は明るく振舞った。
　テーブルを見れば、サラダやスパゲッティなどが配膳されている。
「ああ」
　向かい合わせにテーブルに着き、ミントの浮いたアイスティを一口飲む。すると、意外そうな顔でデュオが口を開いた。
「・・・オレが毒を盛るとかって思わないの？」
　ふっと表情が和らぐのが、自分でもわかって”らしくない”と思う。ヒイロが微笑したのを、青紫の瞳が不思議そうに見つめていた。
「思わない」
「でもさ、オレって人殺しだよ。もう２人殺してるし、今更ヒイロが増えても変わりないじゃん」
「そうだな」
　それでも構わないと臭わせれば、整った顔を顰めたデュオが唇を尖らせた。
「殺されないと思ってんだろ！」
「監視せずに殺されるなら、それは俺のミスだ。別にお前が気にすることじゃない」
「ふ～ん、余裕だね」
　むっとした様子でしばらく考えていたデュオは、フォークでスパゲティを弄る。口に運ぶ量を巻き取りながら、まだクルクルとフォークを手の中で回していた。その手が止まり、サラダを口に運ぶヒイロに笑顔を向ける。
「じゃ、オレがヒイロを監視してみるっての・・どう？」
「・・好きにしろ」
　突然のデュオの変化に身構えたヒイロは、苦笑しながら静かに頷いた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　さて、ヒイロは何のためにデュオを引き取った（？）のでしょう。同居にはそれなりの理由があり、結構単純な理由かも知れません。というか、その部分だけは今回決まりました（笑