W2×1　【MiyabihimeA】

　敵の本拠地は古い要塞だったこともあり、左が切り立った崖で、右と背後は海という最高の立地条件だ。それだけなら問題ないのだが、入り口が細く狭い崖道しかない。しかたなく潜入を試みようとしたが、時間的問題で断念した。
　地元住民が多数、テロリストに拘束されているのだ。その数、およそ５００人。すでに見せしめと称して、町の有力者が１０名ほど殺された。
　３０分に１人ずつ殺される現状では、突入以外に迅速な解決方法が見つからなかった為、最小限の人数で最大の成果を期待することに決まった。
　途中までは順調だったのだが、侵入者に気づくなりテロリストは人質である地元住民を建物内に開放してしまったのだ。おかげで、雑多な気配に気を取られて敵を見つけづらくなり、間違えて住民に銃を向けること数十回という情けない羽目に陥った。さらに悪いことは重なるもので、テロリストが地元出身者な所為で外見上の見分けがつかない。
「どうしたもんかねぇ」
　苦笑するしかない。やり手の敵を賞賛している余裕はないが、たいしたもんだと感心しながらデュオはナイフの刃を一振りした。さすがに切れ味が鈍っている。
　残る武器はワイヤーのみ・・・・・・・ふと、散り散りになった仲間を思い浮かべた。
　アイツら、大丈夫かな。
　他人の心配をしている暇はないのに、ついつい思考は沈む。トロワはいいとして、五飛なんか苛立ちで怒鳴り散らしてそうだし・・・ヒイロは間違えて一般人を傷つけて自虐的になってたり・・・しないよな、やっぱ。彼らも一流エージェントだし。
　気を取り直し、左手のワイヤーを指に絡めた。

　血で滑る銃のグリップをジーパンで拭い、ヒイロは改めて武器を握り直す。詰めた銃弾はこれが最後、カートリッジ内に残る２０発だけだ。それでも心細さは感じなかった。
　今は分断されているが、仲間がいる。彼らがやられる筈はなく、ましてや自分達は肉体のすべてが凶器になる実力を持っていた。格闘戦で、２倍の体格を誇る相手を叩きのめす技術は、たとえ戦争が終わっても消えるものではなかった。
「・・・・？」
　感じた気配の希薄さに、目を細める。
　やっと住民ではなく、敵が当たったと安全装置を外した銃を向けた。床を転がりながら、曲がり角の向こうにいる気配の主に照準を定める。
　―――と。
「ヒイロ、か？」
　声と同時に腕に痛みが走った。
「・・・・デュオ」
　名を呼べば、彼の左手が一閃してワイヤーを巻き取る。痛みはすぐに消えたが、手首より少し上に薄い輪が浮かんでいた。切れていないので、鬱血の痕だろう。
「悪ぃ、すぐに緩めたんだけど・・」
　申し訳なさそうに謝罪したデュオへ向け、ヒイロは握った銃の引き金を引く。髪を掠める至近距離を通過した弾は、背後の敵を沈黙させた。確かめるまでもなく、一般住民ではなくテロリストだ。手にした銃が転がり落ちるのが見えた。
「お見事！」
　褒めたと同時にデュオの視線が上に向けられ、弾いた指先からワイヤーが伸びる。音も無く絡みついた死の腕（かいな）は頭上のテロリストをバラバラに切り裂いた。一歩下がって、天井裏から銃口を突きつけた敵の残骸を避けるデュオが、口角を引き上げて笑う。残忍な表情は、住民を助けに来た側よりテロリストに近い。
「・・・・・デュオ、邪魔だ」
　どうやら何か信号を送られたのか。大量にテロリストが集まってきた。残り十名ほどのテロリストから、ヒイロの正確な射撃が抵抗を殺いでいく。
「邪魔って・・ひどい」
　確かに銃でなければ届かない距離なので、ぼやきながらも素直にヒイロの斜め後ろに身を潜める。兆弾で欠けた壁に身を預けながら、減っていく敵を数えた。
「終わったか？」
「ああ」
「さっすがヒイロ♪」
　オレの恋人は最強だと嘯きながらも、周囲を窺う視線は油断も隙もない。
　ヒイロの使った銃弾は１５発、倒れた敵の数もぴったり１５人だ。これで残っているテロリストはいないだろうと、デュオは恋人に歩み寄った。
「偉くなったものだ」
　スイーパーでの立場を揶揄ったものか。こうして恋人だと主張する今の状況に対してか。ヒイロの厭味をさらりと聞き流したデュオは、戦闘の緊張で乾いた唇を重ねて微笑んだ。

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　うふふっ。五飛とトロワはどこへ消えたの？？？　な～んてね。
　珍しくデュオより最前線で戦うヒイロを書きました。いいね、やっぱり。ヒイロは最前線が似合うわ。でもケガすると痛いので、弾はデュオに当たれ！　←それでもデュオファンな綾雅；