W2×1　【MiyabihimeA】

「あなたにそれを言う権利はないわッ！」
　突き放して、通信画面に開いた回線へ向き直る。なんとかサラとヒイロの通信を妨害しようと、激痛を耐えて床を這いずるデュオなど、彼女は気にした様子も見せなかった。
「ヒイロ・ユイ？」
　柔らかいイントネーションで呼んで、足元に縋るデュオの傷口を思いっきり蹴り上げる。
「・・・ぐっ、痛ぅ」
　呻きを必死で押し殺すが、それでも音声として拾ってしまったらしい。ヒイロに心配をかけたくないのに・・・思うほどに、逆効果になってしまう。
”デュオ？！”
　ヒイロの悲痛な声が微かに届く。それが痛くて、デュオはキツく目を瞑った。
「彼は私が預かっているわ。返して欲しい？」
”デュオは、ケガをしているのか？”
「ええ、右の脇腹を・・ね」
　言葉を意味ありげに切って、サラは腹部を押さえて痛みに耐えるデュオへ眼差しを向けた。
「ねぇ、話がしたいのかしら」
　デュオが首を横に振るのを無視し、彼女は端末をデュオの前に下ろす。
”デュオ・・・”
　ヒイロに呼ばれ、汗が染みる目を開いて必死の思いで笑みらしきものを浮べた。震える唇で、自分の思いを伝える。
「来るな、罠だ」
　それは声にしなかった。読唇術で意味は通じるし、みっともなく震える声を聞かせたくなかったのだ。ヒイロにもそれは伝わったらしく、何も答えはなかった。
「もういい？」
　楽しそうに端末を持ち上げて男に持たせると、サラは前髪をふわりと掻き上げる。
「彼、無理しているけど・・・かなり痛い筈よ？　だって至近距離からの貫通ですもの」
”・・・・”
「殺さないように命令はしておいたのだけれど、彼がかなり抵抗したらしくて、生きているだけマシな状態なの。助けに来る気ある？　ヒイロ・ユイ」
”場所を教えろ”
　いつもより低いヒイロの声に、彼が今どんな表情をしているのか。手に取るように分かるデュオは、結局ヒイロを危険に晒す原因となった自分を呪った。
　自分を助ける為にヒイロが来る―――危険な罠に自ら飛び込もうとしているのだ。
　・・・・・・死んでしまおうか。
　それは啓示のように、デュオの脳裏にふと浮かんだ。
「デュオ・マックスウェル、話があるそうよ」
　サラは端末をデュオの前に放り出した。どうやらヒイロから望んだらしい状況に、デュオは意識を端末の向こうにいる恋人へ向ける。
”いいか、俺が行くまで死ぬな！”
　その一言を残して、通信は一方的に切れた。
　ヒイロには見透かされていたらしい。楽な道を選ぶなということだろう。先に釘を刺されてしまい、デュオは死に逃げる手段を断たれてしまった。
　ヒイロは・・・残酷だな。
　思う反面、彼の立場ならヒイロに同じ言葉を継げる自分を知っているから、デュオはヒイロの言葉を噛み締める。
「彼、こっちへ来るそうよ？　良かったわね」
　言い置いて、こんな薄汚い場所にいるのはもう嫌、とばかりにさっさと出て行く。サラの背中を見送りながら、デュオはまた照明を断たれた独房で、悪夢が現実にならないようにと祈っていた。
　今はそれしか出来ないから・・・・・・。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....