W2×1　【MiyabihimeA】

「レイルは女を抱かない。恋愛対象は同性だけだ」
　―――――？！
「・・・つまり？」
　一瞬理解不能に陥ったらしい、優秀な部下に説明を始める。足を組んでヒイロを抱き寄せたデュオは、恋人の頬についていたクッキーの欠片を舐めた。
「つまり、同性愛者ってこと！」
　苦虫を噛み潰した顔をして、レイルが顔を背ける。思わずまじまじと見つめてしまったシフェルが、慌てて視線を逸らした。さすがに不躾すぎるだろう。
「・・・・・・おまえだって同じくせに」
「ん？　違うな。だってオレは男女に関わらず、ヒイロに惚れたんだから♪」
　ねぇ～♪　と恋人に笑顔を向ければ、意味が分からぬままヒイロが頷く。ほとんど反射的な行動らしい。そんな恋人にゆず味のクッキーを差し出しながら、無言で目を見開くミカエルを見やった。
　茫然自失。まさしく諺を地で行く表情に、青紫の瞳を緩めながらデュオが口を開く。
「女性相手に浮気する筈がない、そうだろ？」
「・・・・だったら、本気なのかも・・」
　まだ疑うミカエルの呟きに、死神は少しキツい言葉をぶつけた。
「まあ・・・おまえが信じない程度の愛情なら、そうかもな」
「・・・・・いい加減にしろ、デュオ」
　むっとした顔で恋人を庇い始めたレイルに、くつくつと喉を震わせたデュオが肩を竦める。疑われているのは自分で、言いがかりをつけられたのも同じ。それなのに、恋人ミカエルを庇う時点で答えなど出ているだろうに・・・。何を彼らは遠回りするのか。
「ほら、レイルはおまえを庇うだろ」
　指差した先で、赤毛の青年は顔を赤らめてしまう。
　冷めてしまった紅茶を下げるシフェルの手が、カチャカチャと茶器の音を響かせた。新たに用意されたコーヒーを前に、頬を赤く染めたミカエルが隣を窺う。
　ヒイロ用のカップを引き寄せて、砂糖とミルクを加えて味を調えてやる。くるりとスプーンを回して混ぜれば、ヒイロがそっと手を伸ばした。渡す前に「熱いぞ」と忠告することを忘れない。
　ふぅふぅと冷ましてから口をつけるヒイロを微笑ましく見守り、デュオは行儀悪く肘を膝の上に乗せた。組んだままの足に乗り出した状態で、背を滑る三つ編みを指先で弾く。
「わかってるのに足掻くと、ろくな結果にならないぞ」
　忠告めいたデュオのセリフに、ミカエルは目を伏せた。
「・・・・・しかし、よくそんな情報知ってましたね」
　感心しているのか。しみじみとレイルに呟かれ、コーヒーを口元に運んだデュオが苦笑する。その表情はどこか柔らかい印象を与えた。
「レイルとの付き合いは、ミカエルより長いんだぜ」
「もしかして・・・・」
「いや、ヒイロ。それはないから！！」
　もごもごクッキーを噛み砕いていたヒイロの心配を、一蹴したデュオの顔は青ざめていた。とんでもない誤解だ。というか、考えるに寒い！
「そうか・・」
　レイルが同性愛者だと知っていて、恋人のミカエルより長い付き合いなら・・・もしかして過去に付き合ったことがあるのか？　そう尋ねようとしたヒイロだが、即座に否定されたことで新たなクッキーを口に咥える。おからクッキーは、いたくヒイロのお気に召したらしい。
「・・・・・うん？　デュオは２人の出会いを知ってるのか？」
　好奇心から目を輝かせて尋ねるヒイロに、笑顔で頷く。そのまま説明に入ろうとしたデュオを、レイルが遮った。
「ちょっと待て。おまえが説明すると話がおかしくなる」
　それから溜め息をつくと、隣のミカエルに視線を送る。どうしようか？　尋ねる眼差しに、先ほどの痴話喧嘩の名残はなかった。しかたないですよ・・相談してしたのはこっちです。そんなミカエルの頷きに、くしゃりと赤毛を掻き乱したレイルは天を仰ぐ。
　無邪気に待つヒイロの蒼い瞳に負けて、レイルは重い口を開いた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　やっと馴れ初めに入れそう。というか、リクエストされたのは、【3】の部分からってことですね（笑
　じゃ、前のフリは何？　みたいな・・・・汗；