W2×1　【MiyabihimeA】

　べっとりと張り付く髪とシャツが鬱陶しくて、吸い込んだ空気の不快さに溜め息をついた。
「文句はデュオさんへ言ってください」
　同様に汗で濡れた髪を、面倒くさそうに掻き上げるシフェルが緑瞳を眇める。
　レイル経由で届けられた最後の暗号は、物騒で残酷なおまけ付きだった。最初からそのつもりだったのだろう。デュオの性格を正しく理解している２人は、目を付けられた組織に心底同情していた。
　以前から目障りな騒ぎを起こすＬ１の地下組織に、すべての罪を擦り付けようというのだ。間違いなくデュオ以外の誰も考えない作戦に、シフェルとセリアが協力しているのには訳がある。実は先日の作戦で軽いミスをして、それをデュオにカバーしてもらっていた。
　やや脅されている形だが、協力を拒むのは難しい状況だ。
「残りは・・？」
「これで最後です」
　予定通り、Ｌ１の地下組織に爆弾を運び終え、シフェルは数を確認して頷く。今回はセットする必要はない。彼らがここで爆弾を作って、あちこちに仕掛けていた―――という間違った情報を確定させる為に、工具を含めた道具や配線コード、爆薬を並べる。もちろん、完成品はシフェルのお手製である。
　この組織のエージェントに、同レベルの爆弾を作り上げる技術はなかった。それを補うように、そっと設計図も忍ばせておく。不自然に見えないよう、少し雑然とした雰囲気を演出しながら並べ、離れた位置からテーブルや棚を確認した。
「大丈夫ですね」
「・・・ってことは、これで撤退？」
　暑さに弱いセリアが、うんざりした様子で尋ねる。それに頷いて、２人は来たときと同じ換気口からビルの外へ脱出した。

　プリベンターのエージェントに取り囲まれたＬ１の地下組織では、誰も突然の状況を理解できなかった。突入してきた彼らに拘束され、使っていなかった部屋から爆弾と材料が見つかる。おまけに何やら設計図が出てきたそうで、先日来の爆弾テロ（・・・といっても、デュオ達により未然に防がれているが・・）に使用された爆弾と一致したらしい。
　確かにテロ活動の計画はあったが・・・・まだ何もしていないのに・・・・。がっくりと肩を落として連行されるテロリスト未満の彼らを、デュオは楽しそうに手を振って見送った。気の毒そうに視線を逸らしたヒイロと、最初からとんでもない方向を向いている五飛、すぐ隣で面白そうに成り行きを見守るトロワ。元ガンダム・パイロット４人が揃う現場は珍しく、プリベンターのエージェントの好奇心は刺激される。
「さて、これで満足かな？」
　悪びれた様子なく、連れて行かれるテロリスト未満を指差せば、トロワは苦笑して頷く。
「犯人は捕まった・・・・それ以上はレディも求めないだろうが・・・」
　心当たりのない罪は認めないだろうな。
　トロワの意味深な眼差しを、青紫の瞳は瞬きひとつで受け止めた。
「罪状否認はアイツらの権利だぜ？　ここは民主主義国家だろ」
　くすくす笑う死神の隣で、ヒイロがくいっと袖を引いた。
「ん？　どうしたの？？」
　渡された小さな紙を開けば、几帳面そうなアルファベットが並び、メッセージがひとつ。
「・・・・・・・・・・・」
　無言になったデュオの表情が引き攣り、笑顔は欠片もなく砕け散った。だが僅かに青ざめた顔色は、溜め息ひとつで元に戻る。
「元の木阿弥・・・・」
　苦笑した恋人に、不吉なメッセージを見つけてしまったヒイロが首を傾げる。渡された紙を読めば、”大量の書類を片付けてください！”という、スイーパーの№２直筆の文章だった。
　また書類だ。
　うんざりしながら溜め息をついたデュオに、ヒイロ達３人は笑みを零した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ＮＥＸＴ....？

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　結局、元に戻ってしまいましたね～笑。
　デュオの小細工で助かったのはヒイロと五飛だけ、トロワにいたっては仕事を増やされ、シフェルとセリアは苦労し、レイルは今回名前だけ（大笑
　ま、いっか。
　一応、後日談のおまけを書くので、そちらもあわせてどうぞ！