W2×1　【MiyabihimeA】

　もうオレに興味はないのだろう？　ならば、ここに残る必要はない。それとも、まだ何か知りたいと？
　疑問を孕んだ口調に怒りを感じ取り、ヒイロは噛み締めた為に血を滲ませた唇を湿らせた。緊張に強張った手を動かしながら、そっと隣の男の袖を掴む。
「嫌だ」
　嫌われたのかと思うと、心が痛かった。だからデュオの顔を見上げる勇気がなくて、俯いたまま呟く。そんなヒイロは知らない。袖を掴まれたデュオの表情が、柔らかく綻んだことを・・。
「傍に・・いたい」
　必死で紡いだ言葉に、ヒイロはやっと自らの気持ちを自覚した。正確には、己の感情の名前を理解したのだ。最初に出会ったのは端末越し。顔も名前も知らない状態で、とても興味引かれた。調べて写真を見て・・・会ってみたいと思った。そして事故を装って近づいた相手の優しさに・・・・俺は完全に囚われている。
「オレの隣にいたいってのは、いろいろと無理があるんだぜ？」
　商売敵だし、そもそも会社の関係は良好ともいえない。一緒にいる為には、どちらかが己の立場を捨てるしかないのだ。ＣＥＯであるヒイロと、会社の代表でトップで活躍するデュオ。どちらも置かれた立場と重責は身に沁みていた。簡単に捨てられるくらいなら、苦労はしない。
　わかっていると頷いて、滲んだ涙を堪えるために目を閉じた。
「ヒイロはオレに何を望むの？」
　真剣な響きに、ぎゅっと強く瞑った目を開いて顔を上げる。気づいた気持ちを告げるのに、彼の目を見て答えたいと思った。例え拒絶されるのだとしても、視線を逸らして伝えるほど安易な感情ではないから・・・・そんなヒイロの決意を汲み取ったのか、デュオは体の向きを変えて正面から向き直る。
　青紫の鮮やかな瞳を真っ直ぐに見据え、ヒイロは震える唇から想いを告げた。
「ずっと一緒にいて欲しい。叶うなら、俺はすべて捨てる」
　ウィング社のＣＥＯの立場も、現在手にしている財産も、最先端の技術さえ・・・・すべて必要なかった。デュオと一緒にいられなくなる原因となるなら、すぐにでも捨ててしまいたい。
　すっと目を眇めたデュオの表情が、一瞬冷たくなる。それが拒絶のような気がして、ヒイロはきつく拳を握り締めた。
　自分が都合の良いことを口にしている自覚はある。デュオを事故の加害者に仕立てて近づき、一方的に負担を強いた。彼がウィング社へハッキングしたのは仕事上のことであり、別にヒイロに興味があった訳ではなく、デュオにこちらの言い分を聞く理由はないのだ。
　どちらかと言えば被害者なのだから、彼は俺を迷惑だと考えている可能性の方が高い・・・・。
　無言で断罪を待つヒイロの蒼い瞳が潤んで、零れそうになる涙を必死で抑える。泣くのは卑怯で、デュオを傷つけるからと我慢するヒイロへ、ゆっくりと左手が伸ばされた。
「・・・・いいよ、何も捨てなくて」
　それは、隣にいられないという意味なのか。
　ぽろりと零れた涙に、左手の指が触れる。そっと引き寄せる腕に従いながら、虚しく感じる心が乾いていく。こうして優しくされるのも、これが最後かも知れなかった。
「オレが、スイーパーを捨てるから」
「・・・え？」
　突然の言葉の意味が理解できず、顔を上げたヒイロの眦に接吻けが落ちる。触れるだけで涙を吸って離れたキスが、少し擽ったい。驚きに瞬いた蒼い瞳に、満面の笑みのデュオが映っていた。
「ヒイロはオレを選んだんだろう？」
　小首を傾げたデュオの肩を、三つ編みが滑り落ちた。引き寄せられた体を密着させたまま、恐る恐る腕をデュオの背に回す。触れた三つ編みを指先で探れば、彼の笑みが深まった。
「拒める訳ないさ、オレはヒイロに一目惚れだったんだから」
　だから、選んでくれて嬉しい。
　優しいデュオの接吻けは、額に、左右の瞼に、そして頬へ。降って来る柔らかい感触に擽ったさと恥ずかしさを感じて赤面しながら、それでもヒイロは嬉しそうに笑みを浮かべた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　あらら・・・とんでもない告白シーンが展開しています。というか、ハッキングの件はどうなったの？（笑
　でも自分から告白するヒイロって、雅姫では珍しいかも知れません。普段はデュオが恥ずかしいくらい告白して、キスしまくってるからなぁ・・・・・。