W2×1　【MiyabihimeA】

　情報を扱う会社である以上、ライバル社からの嫌がらせや誘拐は日常茶飯事だ。その為にヒイロを含む役員全員にＧＰＳ（全地球測位システム）を持たせていた。にもかかわらず、彼の行方が掴めない。しかも要求や連絡もないことから、勝手に警察へ連絡するか判断に困っていた。
「あと１日待ってみるか・・・」
　その時間が命取りにならないことを祈りながら、赤毛の青年レイルはくしゃりと前髪を握った。短く刈られた燃えるような赤毛と、凍るように冷たいアイス・ブルーの瞳が正反対の印象を与える。感情に流される熱い人間である反面、仕事に関しては冷淡で残酷な一面を持つ彼は、ウィングの情報を一手に引き受けて管理する立場にいた。
　　ピピッ・・・・
　突然の警告アラームに、管理室に緊張が走る。一番近い端末に取り付いたレイルが、にやりと口元を歪めた。と同時に、周囲で各々の端末を操作するブレーン達に声をかける。
「久々のお客さんだ、しっかり接待しろよ！」
「「了解」」
　口々に異口同音の返事をした彼らの仕事ぶりは一流で、レイルは笑みを浮かべたままディスプレイを見つめる。指先がタンタンと机にリズムを刻んで、楽しそうに目を細めた。
　次々と展開されるセキュリティは生きている。正確には自動で対応するプログラムに、その場に詰めている元ハッカー達が臨機応変に手を加えるのだ。その為に、同じプログラムであっても毎回違う結果が出た。それこそが、ウィングを最強の情報企業足らしめる理由だった。
　最初は順調だった侵入を阻まれて、相手が独自のプログラムをぶつけてくる。意外に手強い相手に、レイルが興味深げにディスプレイへ近づく。
「やられたぁ・・・」
　一部を突破されたらしく、叫んで悔しがるブレーンに苦笑する。稀にこういうこともある・・・と悠長に構えていたレイルの耳に、再び同じような叫びが届く。それが続けば、さすがに顔色が変わった。
「ったく、おれが出なきゃダメかぁ？」
　茶化しながらディスプレイを見た瞬間、慌ててキーボードを引き寄せた。とんでもない実力の持ち主だ。もしかしたら最初の侵入者とは別の相手かも知れない。こちらの盲点や隙を容赦なく突いてくる手法は、ウィングのセキュリティを知っているのでは？　と疑うほど的確だった。
「・・・嘘、だろ」
　オープンになったサーバーは、完全に相手の支配化に置かれていた。こうなってしまっては、しばらく復旧は出来ない。一部の情報の消失を覚悟で、レイルは最後の手段に出た。


　社員情報をすべて検索しても、ヒイロという名前は１人だった。役職名は最高経営責任者、日本で言う社長と同意語だ。会社の経営と運営に関する執行権限は、ＣＥＯがすべて握っている。
　ＩＤカード用の写真が添付された情報に、嘘はないだろう。その写真の主が若く、とんでもない美貌の持ち主だと知っても、それだけなら驚かなかった。ただ・・・目の前にいるヒイロが同一人物だと示されて、デュオはかなり動揺している。
「・・・憶えていない」
　不安そうに呟いて、胸元をきゅっと握り締めるヒイロの肩を、デュオの腕が引き寄せた。自分の肩に寄りかからせながら、俯いているヒイロに笑顔を向ける。
「でもさ、これでヒイロを心配してる人がいるって分かったんだし・・・連絡してみたら？」
　頷くと思ったのに、唇を噛んだヒイロは首を横に振った。問いかけようとした瞬間、ぱちんと乾いた音がしてディスプレイが暗転する。
「・・・げっ、ヤバッ！」
　慌てたデュオが端末を起動させると、すぐに回線を切断していく。繋いだ時に経由した回線を逆に辿りながら、自分の回線の痕跡を消していく。しかし一足遅かったようで・・・。
「あ～あ、探知されちゃった」
　お手上げと両手を挙げて降参しながら、デュオが苦笑して振り返る。無言で溜め息をついて、顳を抑えるシフェルの脳裏に”後先を考えずに暴走する。本当に使えない人ですね・・”と冷めた考えが過ぎった。
「・・・・すまない」
　謝罪するヒイロが唇を噛む。指先でそっと、噛み締めた唇を解かせたデュオが笑った。
「気にすんなって。何とかなるさ」
　・・・・というか、ヒイロさんがここにいると・・・誘拐犯扱いされる可能性があるんじゃないでしょうか。
　ふとシフェルに降りてきた疑問は、残念ながら僅かな時間の後・・・現実のものとなった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　ああ、レイルさんが便利に使える（大笑
　彼はいい！　どんなときでも役に立つキャラだから・・・・今回はヒイロ側のメンバーとして登場。さてさて、結局ヒイロとデュオはどうなるのでしょうか？