W2×1　【MiyabihimeA】

　デュオの後ろから差し込む日差しはすでに高くて、どうやら昼過ぎらしい。窓際のベッドから見えるのは、整った魔物の顔と窓外の木の葉、そして青空だった。
「おはよ」
　ちゅっと音を立てて唇を重ねたデュオに、少しはにかみながら頷く。昨夜は”初めて”が多すぎた。それを思い出せば、恥ずかしさに顔が赤くなる。
　翼を出した本来の姿で自分を抱いたデュオ。
　強請るように愛を囁いた自分。
　身を起こすデュオの髪がさらりと肩を滑り落ち、後ろからの日差しに透けて金色に光った。キレイだと素直に思う反面、既視感に記憶を探る。
　金色の長いストレートの髪、影になって暗い紫の瞳・・・大人びた笑み―――？
　どきっとした。
　思い出したのは、もう１ヶ月近く前の夢だった。町と町の間隔が広くて野営を重ねた時期に、見た夢の登場人物に似ている。いや、あの夢の中で自分は「この人はデュオに似ている」と思ったのだ。だから順番は逆なのだけれど、それでも同一人物なのかと疑うほど酷似していた。
　３対６枚の羽を広げて、赤い手を精一杯伸ばして、悲嘆に暮れた顔で何かを求めていた姿。あれきり見ないので記憶は曖昧になったが、思い出せば痛々しい。
「そろそろ起きる？」
　小首を傾げて尋ねるデュオに、「ああ」と応えを返せる自分は上の空だったのだろう。夢と現実の区別がつかなくなりそうな思考は、ふいに視界へ飛び込んできた傷に遮られた。
　魔物や神族は傷の治りが人間より早い。昨夜切り裂いた右手首の傷も、普段ならとうに塞がっている筈のケガだった。魔物を断罪するデスサイズの刃だったからだろうか。血は固まっているものの、まだ傷口は残っている。
　無造作に背を向けて、下に落ちている黒衣を拾うデュオの肌に、僅かに赤い筋を見つけて眉を顰めた。すでに知っている痛みや怠さを無視して、身を起こす。伸ばした指で、背の細い赤に触れてみた。
　昨夜は気づかなかった傷痕・・・赤いけれど、血を流したようではなくて・・・・・。
　――――ッ！
「・・・ヒイロ？」　
　驚いた様子で振り返ったデュオの目に、真っ赤な顔で口元を押さえるヒイロが映る。何をいきなり照れているのか、わからないデュオが近づこうとすると慌てて後退る。
「ちょ・・・ッ、危ないっ！！」
　ベッドの上を後ろへずって手をつこうとしたヒイロだが、すっと体が沈む感覚に肌が粟立つ。振り返る間もなく落下する。床に手をつく余裕のないヒイロは、叩きつけられる痛みを覚悟した。
「うわ・・・っ」
　しかし――――恐る恐る目を開いた先で、自分を抱き込んだデュオの腕が見える。
「ケガしてない？」
「ごめ・・・」
「よかった、ヒイロが無事で」
　謝罪を遮ったデュオの顔が心底嬉しそうで、何も言えなくなる。
「・・・・ありがとう」
　昨日から礼ばかりだと笑うデュオに抱き起こされ、裸の躯にシーツを巻きつけられた。意味が分からずに見上げると、困ったように口元を歪めたデュオが耳元で囁く。
「また抱きたくなっちゃうから・・・」
　隠しておいて。
　子供じみた言い分に、くすくすと笑い出した。肩を震わせて笑うヒイロをベッドの上に戻し、今度こそ拾い上げた黒衣を身に纏う。翼もなく、本来なら滑らかな肌に残った痕跡は爪痕で、そういえば我を忘れて爪を立てたのも初めてだと気づいた。
「・・・・・好きだ」
　呟いた声はしっかりとデュオに届いている。だから「オレもだよ」と返してくれるデュオの優しさを待ちながら、ヒイロはうっとりと目を閉じた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 To Be Continued....

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　あのさ・・・ヒイロ助けるなら別に魔力でも良かったのでは？　反射的に手を出して、届かなくて飛びついて下敷きになるあたり・・・うちのデュオだな（笑